2018.07.06
2019.12.01
「マイ•インターン」に見る働くママの苦悩と希望
CHANTO読者の皆さん、こんにちは。
映画コメンテーター、そして、ポンコツ新米パパの赤ペン瀧川です。
僕が“ママに捧ぐ映画を紹介する”なんて企画は成立するのか? 単発コラムで終わるんじゃないか? と、ドキドキしていましたが…無事に第二回を迎える事が出来ました。ありがとう、編集担当さん、そして、読者の皆さま。今回もよろしくお願いします!
ところで先日、同じ保育園の4家族でピクニックをしました。
天気の良い休日、楽しく遊ぶ子どもたち。それを眺めつつ…昼間から普通にハイボールを飲んでいる僕に、パパ友が軽く引くという若干の温度差はありながらも、終始平和に過ごしておりました。
▲ピクニック当日は快晴。青空の下で靴を脱いだだけでテンションだだ上がりの息子・晴太朗。帽子の「P」はPicnicのPなのか!?
妻もここぞとばかりにママ友と情報交換。どんな話をしているのかなぁ、と耳を傾けてみると「お弁当作りのプレッシャー…まじ半端ねえ!」という内容でした。
今回集まったママ友は全員、ワーキングマザー。お弁当の日はいつもより早起きし、お弁当を完成させてから出勤せねばならず、さぞかし緊張するのだとか。“お弁当の日”は、毎週水曜日。毎日お弁当を作っている人には「なんだ、週に1回だけ? それなら楽勝でしょ?」と言われてしまうかもしれません。それでも、ママたちはとても悩んでおりました。
「冷凍食品ってありなの?」とか「果物どうする? 入れてる?」、「パンとか入れたら怒られるの?」、「残されるのが悲しいから完食したメニューを繰り返しているんだけど大丈夫?」、「いっそのこと、金曜の海軍カレーみたいに曜日感覚を取り戻す意味の弁当でいくか!」などお弁当トークが止まりません。
働くママは戦っている。
明確な勝利や分かりやすいゴールのない戦いに挑んでいる。
昼間からハイボールを飲んでいる場合じゃねえ。ちゃんとしろ、俺!
今回は、働くママの奮闘を描いた映画をご紹介します。
<一つ前の作品紹介を読む> 是枝監督「そして父になる」で描かれる母の強さ
ママに捧ぐ映画 第2回 ナンシー•マイヤーズ監督作品
『マイ•インターン』
2015年に公開され、アン•ハサウェイとロバート•デ•ニーロのW主演が話題となった『マイ•インターン』。監督のナンシー•マイヤーズは「恋愛適齢期」や「恋するベーカリー」などを撮った女性監督で、現在68歳のバツイチ。働く女性として、酸いも甘いも知るベテラン監督です。そんなナンシーが“仕事も家族も大切にしたいすべての女性に捧げた映画”がこの作品です。
どんなストーリーなのかを簡単に説明すると、起業から1年半で急成長を遂げたファッション通販サイト運営会社の女社長さんと、そこへシニア・インターンとしてやってきた70歳のおじいちゃんとの友情を描いています。
アン•ハサウェイ扮する若手社長のジュールズは、日に日に成長する自分の会社で懸命に働き、家に帰れば優しい専業主夫とかわいい娘が待っています。
なんだよ、幸せ全開じゃないか。家庭もあるし、お金もあるし、地位もある。「共感なんてできるかい! こちとら明日の弁当の事で頭が一杯なんだよ!」と思う人も多いでしょう。
▲妻が仕事に専念できるよう、自分の仕事を辞めて家庭を支えている夫。
掃除に洗濯、料理もできて、さらには、娘の悩みもパパが一手に受け止めるスーパーイクメン。
しかし、彼女には大きな悩みがあります。
会社の成長に自分のスキルが追いつかず、トラブルが多発。気づけば投資家たちからCEOを招くよう、迫られているのです。この会社は自分の会社なのに、です。
そんなとき、シニア・インターンとして入社してきたのがロバート•デ•ニーロ扮する70歳の新人・ベン。定年退職後、妻に先立たれて早3年。時間を持て余し、やりがいのある日々に飢えていたベンが、社員の平均年齢30歳!みたいな創立間もないベンチャー企業にやってきました。
Macの立ち上げ方も、インスタグラムもFacebookも知らない70歳。そして、なんと社長直属の部下に。こんな大事な時期に限って…、もう心配しかありません!
▲クラシックなスーツスタイルを好み、紳士的な振る舞いのベン。
その物腰柔らかな人柄や包容力で、いつしか社員たちの人気者に。さあ、ジュールズの部下は務まるのか!?
働くママの“ココロ安らぐ時間”の大切さ。
▲社内を自転車で移動するジュールズ。分刻みのスケジュールの中、コールセンターで顧客の意見を直接聞いてみたり、
配送センターに出向いて包み方をレクチャーしたりと現場を大切に考える働きぶりは観ていて気持ちいいんです。
主人公のジュールズは仕事を第一に考えて突っ走ってきました。
専業主夫に支えられて仕事に専念する事は、ときには働く女性の憧れかも知れません。でも、皆さんの予想通り、問題は山積みです。家族と過ごす時間は激減し、娘との約束も果たせず、夫とゆったり過ごす時間はありません。キラキラとしたファッション業界で働く彼女をよく思わないママ友の冷たい視線、社長としての責任を果たしたいのに足りないスキル…
職場にも家庭にも味方がいないと感じているジュールズの心は干上がっていきます。映画の序盤、幸せ全開で悩みとかないだろお前!とか妬みながら見ていたのに…この状況、何とかならないのか、と胸が痛みます。
そこに彗星の如く現れたのがデニーロ扮するベン、となったワケですよ!
入社当初、心配しかなかったベンですが、実は尋常じゃない気づかいスキルを持ったスーパー紳士のおじいちゃんでした。若者に自然に溶け込み、つねに他人を気づかいながら働く事で職場でも一目置かれる存在になっていきます。このおじいちゃんこそ、ジュールズの乾いた心を少しづつ潤していくヒーローとなったんですよ!
世の中の働く女性はこう思うに違いありません。「ベン、うちの職場に来てくれよ」と。
彼が発する優しい言葉と、穏やかな微笑みに癒されまくります。もう、まるで“歩くマイナスイオン”です。
▲偶然にも社内でジュールズの涙を見てしまったベン。仕事に行き詰まっている事を知ってからというもの、彼女の働きぶりを讃えて、部下として支えます。
ジュールズが一人で残業していればベンも一緒に残り、仕事以外の楽しい会話で笑顔にさせる。その優しさで、次第にジュールズは心を開くようになります。
僕はこの映画を観ながら、ふと思いました。
この、ホッとひと息つける瞬間が、本人が考えている以上に大切なんだと。
そう、この映画、おじいちゃんと友情を築くと楽しいよ、って話じゃない。
働くママの心が安らぐ時間の大切さが、たっぷりと詰まってます。
お弁当作りを手伝おうとしてまったく味のしない卵焼きを作り、量を考えずウィンナーをひと袋ほど炒めてしまった自分が恥ずかしい。ベンに程遠い自分が…恨めしい。
▲毎週、きっちり完食してくる晴太朗。どうやら僕が作ったウインナーと卵焼きも食べてくれたようだ…良かった…
大好きな仕事と、大切な家族。どちらを選ぶ?
ベンに癒される事で自分の心を見つめ直す余裕が出来たジュールズは、大きな決断を下そうとしていました。そう、例のCEOを招き入れるかどうか問題です。
でもこれって、究極の2択だと思いませんか。なぜそこまで追い詰められてんだよ…と。
そこまでする必要あるの? 何があったんだよ、一体…とも思える状況。
そう、皆さんお待ちかねの…夫が隠していたある秘密が関係しているんです。
「お前、やっぱりか…」と呟かざるを得ないような残念サプライズ。
そんな中、ジュールズの心の中には、家庭に対する“ある種の申し訳なさ”がよく顔を出します。
だから、家庭内で問題が起きても「仕事ばかりして家庭を顧みない自分が悪いんだ…」と自分を責めます。いやいやいやいや待ってくれ!君は全然悪くないだろう!
僕の妻も仕事で疲れて晩ご飯を作る気力がないとき、「ごめんね」と言いながらお惣菜を買ってくることがあります。いや、ごめんじゃないよ。メンチカツ大好きだよ。…っていうか僕が作ればいいのに、まったく作らずごめんなさい、ですよ!
“ある種の申し訳なさ”って、必要ないのに、執拗に家庭に居座っていたりしますよね。
ジュールズもそうして、「仕事の成功」と「家族の幸せ」の間で揺れまくります。
それは両方を大切にしているからこその悩みなんですよね。
あぁ、規模は違うけれど気持ちは分かる。コラムの締め切り前日に息子とプールに行った僕も同じ気持ちで揺れました。そのときは既に海パンを履いていましたが…。
話を戻して…
これまでかなり沢山の映画を見てきた僕も、このジュールズの決断の行方は予想できませんでした。
究極の選択にジュールズが出した答えを、皆さんにもぜひ見守っていただきたいです。
▲結局、プールにきちゃったんだけどね。暑いからと動かないパパにお菓子を食べさせてくれる晴太朗。
コメディでホッとひと息
この作品、テーマこそ社会派作品としても描くことのできる内容ですが、同じ立場である働くママが気軽に観られるハートフルコメディです。「この映画で元気になってほしい!」という、監督の願いの表れなんだと思います。「現実はそうはいかねえよ!」とか「ベンを連れてこいよ、マジで!」とか…、クスクス笑って観られる映画です。
主人公・ジュールズの心が潤って行ったように、読者の皆さんもリラックスできるひと時を過ごしてもらえたら嬉しいなあと思います。ぜひ、ご覧ください!
[DVD Info]
『マイ・インターン』
監督・脚本:ナンシー・マイヤーズ/キャスト:ロバート・デ・ニーロ、アン・ハサウェイ/価格:ブルーレイ ¥2381+税、DVD ¥1429 +税/販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント