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「一人暮らしの母の存在がテーマ選びのきっかけに」熊澤尚人監督が写真に残したい思い出とは?

ライフスタイル

2021.01.30

映画『おもいで写真』の熊澤監督

映画『おもいで写眞』について語ってくださった熊澤監督

 

手軽に写真が撮影できるようになり、さまざまな瞬間を形に残しているという方も多いとも思います。その中に、思い出がたっぷりつまった写真はどのくらいありますか? 映画『おもいで写眞』では、おもいでの場所で写真を撮る<おもいで写真>という企画を通して、世代を超えた人と人との触れ合いを描いています。

 

CHANTO WEBでは熊澤尚人監督にインタビュー! おもいで写真をテーマに選んだ理由や、作中でもたびたび登場する笑顔にまつわるお話などを伺いました。

 

—— 写真をテーマにしようと思ったきっかけを教えてください。

 

熊澤監督:新聞記事で遺影写真撮影しているあるカメラマンさんの話を読みました。遺影写真でピンボケした写真に遭遇したことはありませんか? 遺影写真は集合写真を引き伸ばして使われていることが多いのがその理由だそうです。

 

私自身も、フォーカスが甘いと思ったこともあったし、ピンボケした遺影写真を残念に感じたという話を身の回りで聞くことが多くありました。劇中に登場したお年寄りのように「遺影写真を撮る」と言われたら「縁起でもない」と思うのは当然のこと。では、どういう写真なら撮りたくなるのかと考え始めたのがきっかけです。

 

—— 舞台を富山県にした理由はあるのですか?

 

熊澤監督:本作に登場するお年寄りのように、日本全国でアパートや団地におひとりで住んでいるケースは実際にたくさんあるそうです。今回は、団地、写真館、港町という3つの要素を絶対に入れたいと思っていました。

 

今となっては珍しい、昭和40年代に建てられたレトロな雰囲気のある団地で、そんな団地棟が何十も並ぶ大きなベッドタウンでどうしても撮影する必要があったのですが、現存するものは非常に少なく、とても貴重でした。それが日本海側にある。思い描いていた理想の場所が富山にあった、それが大きな理由です。

 

—— そんな貴重な場所を映画という形で残せたのも、写真ではないですけれど、思い出になりますね。

 

熊澤監督:本当にそうですね。撮影した団地には少し前までY字型の凝ったデザインの棟もあったのですが、取り壊されて撮影できず残念でした。それでも現存している味わいのある団地棟が形に残せたことはすごくラッキーでした。

 

お母さまの存在がテーマ選びの大きなきっかけになったそう

 

—— 監督が<おもいで写真>を撮るとしたら、などと考えることはありましたか?

 

熊澤監督:もちろん思い出はありますが、それを写真にと言われると、まだ自分自身には実感がないというのが正直なところです。名古屋で一人暮らしをしている母が80代になったので、母の写真については考えます。

 

もともとこの作品のテーマを思いついたのは、9年前。ちょうど、だんだんと体の自由がきかなくなった70代の母のことを考え始めたのがひとつの大きなきっかけでした。遺影写真とは言わないけれど、どういう写真なら撮りたい、残したいと思ってくれるのか、そんなことを考えました。

 

—— 私の祖母は会うたびに写真を撮って「これを遺影写真にする!」と言います。ちょっとおしゃれしたときとか、気分がいいときなどに撮影したくなるようです。

 

熊澤監督:そういう関係ってすごく素敵だと思います。遺影写真を撮るとなると、やはり作中のように「縁起でもない」という気持ちになってしまいがちですから。どういう写真なら撮りたくなるのか、クリアすべき大きなテーマでした。

 

—— 作中のお年寄りの方たちが、思い出の写真を撮ることで人生が輝きだす、本人も活き活きするという描写があって、祖母が元気な理由はコレか!と思いました。もう10年以上、遺影写真候補が増え続けていますから(笑)また写真が撮りたくなりましたし、家族に会いたくなる作品でした。

 

熊澤監督:人と人とがなかなか会えない状況もあるので、よりストレートに心に響く内容だと思っています。家族に会いたくなると思っていただけたのはすごくうれしいです。今の感想を伺って、離れて暮らす家族にも観てもらい、お互いに思い合ってもらえたら最高に素敵だなと思いました。

 

生島家の子育てについてもいろいろと教えてくれました!

 

—— もうひとつ印象的なのは、高良健吾さん演じる笑顔が素敵な一郎です。

 

熊澤監督:高良君はエッジのきいた役の印象が強くて、すごくかっこいい役者さんですが、一郎のように真逆なやさしくてソフトな役を演じても、必ず素敵になると睨んでいました。絶対に上手に演じてくれると思ってお願いしたのですが、まさに思っていた通りの一郎がそこにいました。ハマりすぎて何の文句もなかったです。

 

役のイメージは撮影前に1度、お話ししましたが、撮影に入ったらもう何も注文することもなく進みました。最初にあの役所の衣装を着て、目の前に現れたときから、田舎の役所に本当にいそうな青年になっていましたから。

 

—— 作中でも一郎も、そして写真を撮ったお年寄りも笑顔になるシーンが多かったですが、監督が最近笑顔になったのはどんなときですか?

 

熊澤監督:9年前から作りたくて仕方のなかったこの映画が、緊急事態宣言という状況下にありつつも無事公開されること。これは笑顔になる大きな理由ですね。オリジナル脚本の映画はなかなか形にしづらい中、形になり、公開に至ったことは感無量としか言いようがないです。こんな時期ですが、やっぱりうれしいので、自然に笑顔になりますし、感慨深いです。

 

熊澤尚人/監督・脚本

名古屋市出身。1994 年、『りべらる』が PFF に入選。2004 年、短編『Birthday』でポルト国際映画祭最優秀監督賞を受賞。2005年、自身のオリジナル脚本による、蒼井優主演『ニライカナイからの手紙』で商業監長編デビュー。代表作は『虹の女神』(06)、『おと・な・り』(09)、『君に届け』(10)、『近キョリ恋愛』(14)、『心が叫びたがってるんだ。』(17)など。2017年の『ユリゴコロ』では殺人シーンも交えた人間の深層心理に肉薄。2018年の『ごっこ』は「映画芸術」においてベスト6位に選出されるなど、これまでのフィルモグラフィーのイメージを覆す新境地を見せ、新たな代表作となった。

 

取材・文/タナカシノブ 写真/中野亜沙美

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