2019.07.06
2019.12.01
最終回だからこそお勧めしたいこの映画
突然ですが、CHANTO読者のみなさんは「何度観ても飽きない」とか「何かある度に観てしまう」という映画はありますか?
僕は映画コメンテーターを名乗るくらいですから、その手の映画がたくさんあります。「内容がわかっている同じ映画を何度も観るなんて退屈!」という意見も当然あるでしょう。ごもっともです。
けれど、同じシーンでいつも泣いちゃうし、毎回大満足!という映画があるってとっても楽しいんです。観るたびに発見だってあります。今回はそんな、僕の映画史の中でリピート率No.1のこの映画を紹介したいと思います。
なぜなら…このコラムは今回で最終回でございます。これまで、たくさんの映画をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。少しでもママさんの映画欲を満たせていたら幸いでございます。
さあ、それでは最終回にぜひご紹介したい映画は、この1本!
<ひとつ前の作品に戻る> 忙しい子育て中、もし、自由だったあの頃を懐かしく感じてしまうなら
赤ペン瀧川のママに捧ぐ映画
最終回 スティーブン・ダルドリー監督作品
『リトル・ダンサー』
以前、このコラムでもご紹介した「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」という作品を撮ったスティーブン・ダルドリー監督の長編デビュー作が「リトル・ダンサー」です。デビュー作にも関わらず、その年のアカデミー賞の監督賞にノミネートされるなど今作で様々な賞を受賞しました。そりゃもう大旋風を巻き起こしたと言っても過言ではありません。500万ドルの製作費で1億ドル超えの興行収入を叩き出すという快挙を成し遂げました。その後も撮る映画は全て高い評価を得ている、近年稀にみる“はずさない監督”です。
主人公は11歳の少年・ビリー君。母親は病気で他界、父親と兄は炭鉱夫として働いていたんですが労働環境を良くしようと会社相手にストライキを決行中=実質、無職。そして、同居している祖母は軽度の認知症を患っており、ビリー君が面倒をみています。という、最初からかなりハードな家庭環境でのスタートです。そんな貧乏な暮らしにも関わらず、父親はビリー君にボクシングを習わせています。「男ならボクシング!」というかなりマッチョな思考を持つ父親。レッスン料もしっかり払って一生懸命にボクシングに通わせます。しかし、ビリー君は…全然やる気がありません。ガリガリだしすごい弱いし、ボクシングとか全然やりたくない!と思っています。
(c) 2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy) Ltd.
▲女子しかいないちびっこバレエダンサーに混ざってレッスンする主人公・ビリー君。
ボクシングの練習の時よりイキイキして、手のポジションもいい感じ。
そんなある日、ボクシングの練習中にバレエのレッスンを目撃したビリー君はひょんな事からバレエのレッスンに合流します。あれ…ボクシングよりも楽しくない…?ビリー君はボクシングの練習をすると父親に言いつつバレエのレッスンに通い始めます。しばらくレッスンを重ねた時、バレエの先生は言いました。「ロイヤルバレエアカデミーを受験してみない?」と。
▲うちの息子・晴太朗は…バレエにはハマらなそう。最近は釣りに夢中!
父子の愛と絆を描いた、名作です
そうなんです…ママに捧ぐ映画というコラムのくせに、この映画の中では母親は登場しないんです…全国のママの皆さま、すいません。でもね、どうしてもこの父子の物語をママさんに見ていただきたい。妻は他界し、現在はストライキ真っ最中で無職、長男は荒れてるし、次男はバレエを始めるし、婆ちゃんは認知症という完全に追い込まれたお父さんの苦悩をぜひご覧いただきたいのです。きっと、多かれ少なかれ、隣にいるパパさんが通る道だと思います。
僕が最初にこの映画を見たのは、確か大学生の頃でした。その当時も“いい映画だなぁ”と思ったのですが、結婚して子どもが生まれて父となった今観ると、この映画の素晴らしさがより強力に伝わってきます。これ、ビリー少年が夢を叶える物語だと思っていたけど違うんだ…息子を愛するお父さんの成長の物語なんだ!
▲息子・晴太朗が父の日に描いてくれた似顔絵。
かろうじてメガネらしきものか見える。父親になった実感がわくよね。
そうだ、わかる、わかるよ、お父さん…“男は強くあれ!”とボクシングを習わせていたのに、女子に混ざって踊りまくってる息子を見た時のショックは半端ないよね。そしてバレエの国立学校に行きたいってことは親元を離れるって事だよね…そんなの心配で心配でのたうち回るよね…。
オーディションを受けさせたいけどお金はない。地元の友達からカンパを集めても全然足らない。妻の形見を売るしかない。オーディションに付いて行ったら他の受験生はお金持ちそうな子だらけ。オーディションの出来を聞いたらビリーは半べそで「時間の無駄だった!」とか言ってるし。オーディションの結果が届いたらビリーは泣いて別部屋に移動し引きこもる。もうお父さんの気持ちが七転八倒しまくり、ビリー君よりお父さんに感情移入している自分がいるのです。あぁ、不器用なお父さんの愛情が画面から溢れてるよ!
子供の成長は嬉しいけれど。
うちの子は4歳の男の子です。この4年間の成長は凄まじく、今じゃ自分の気持ちをはっきり言うし対等に会話も出来るし「え!?そんな事まで知ってるの!?」という発言を連発させ、日々の成長に驚かされています。とはいえ、まだ4歳。彼が生きる為に僕を頼っている事は明白だし、だからこそちゃんと守り、育てていかないといけないなぁと思ってます。
お陰で面倒な事もたくさんあります。「トイレの中からオバケが出てくるかも知れない…蓋を開けるのが怖いんだ…」という謎の理由でトイレに毎回付き合って蓋を開けてあげないといけないし、スーパーに行けば「お父さんがビール買ったのになんで僕はお菓子を買ってもらえないの?」という論破できない質問をぶつけられてビールより高いお菓子を買わされたり。「働いてから買えよ、バカ!」とか言うと泣くし。
あぁ、4歳児。なんて手強いんだ4歳児。でも、これがあと何年続くのか。そのうち、自分の進路を考え、自分で行動し、いつか親元を離れていく訳です。父親である僕の意見を聞いてもらえなくなる日がいつか来るのでしょう。それは人としての成長である、と頭では分かっていてもどれだけ寂しい気持ちになるのか全く想像が出来ません。「俺がビールを我慢してお菓子を買ってあげた恩を忘れたか!」とか言っても「知らねえし!」と返される日が来るわけです。あぁ、どうしよう。泣いちゃうかも知れない。しかし、この映画はそんな僕を励ましてくれます。それでもお父さんは愛情を注ぐんだ!息子の未来を守るんだ!と。
▲好き嫌いもなく割となんでも食べてくれてありがたい。ただ、スパゲッティは発音が難しいらしく「スカベッピ」と呼んでます。こんなかわいい言い間違いも、そのうち無くなっちゃうんだよね!
きっと子どもは予想外の方向へ進んでいくから
考えてみれば自分の息子が“映画コメンテーター”になるなんて、僕の親は1ミリも想像していなかったでしょう。保育園の頃から空手に明け暮れて、高校生までゴリゴリの体育会系ボーイだった僕が、こんなにインドアな職に就くなんて。いや、職に就くとか言ったけど“映画コメンテーター”を自称しているだけで仕事がなくなればただの無職。こんな不安定な生活を送るなんてきっと親は望んでいなかったし想像していなかったはず。
子供は親の予想を裏切るものなのかも知れません。そこで、“こんな子に育てたつもりはなかった!”と絶望するか、“その道を見つけたなら突き進め!”と応援してあげられるかは親の器が試される時だと思います。この映画の中で、ビリーのお父さんがその選択を迫られた時、どんな行動を起こすのか。父としての愛と器の大きさに、ポンコツ新米パパの僕は毎回涙するのです。
そして、最後に。
このコラムを通じて、より深く“親子”とか“夫婦”について考える機会をいただけたこと、とても感謝しています。これからも映画と家庭を愛して、悩みつつ喧嘩しつつ日々、戦っていこうと思います。
皆様によき映画ライフが訪れますよう、お祈りしています!
▲保育園に行く前に公園で遊ぶのが日課。4歳児の朝活はジャングルジム!
主人公・ビリー君のように、好きなことを見つけて欲しい!
[DVD Info]
『リトル・ダンサー』
監督:スティーブン・ダルドリー/価格:DVD 1,500円+税/発売・販売:KADOKAWA
(c) 2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy) Ltd.