—— 濱田さん、水川さんにはどんな演技のリクエストをしたのでしょうか?

 

足立監督 

濱田さん、水川さんが演じるという時点で、僕たち夫婦をやってもらうわけじゃないということはお伝えしました。僕たちの話を描いてはいますが、濱田さん、水川さんが演じる夫婦の話に見えるのが一番いいというのが僕のリクエストでした。ただ、本読みは会議室ではなく、我が家に来ていただいてやってみました。「こういうところに住んでいる夫婦の話です」という空気感だけでも味わってもらおうと思ったからです。

 

—— 映画化するにあたって、絶対入れたいエピソードというのはありましたか?

 

足立監督 

映画になると決まったときは「ようやく」という感じで本当にうれしかったですし、妻もすごくよろこびました。この手の物語は、映画やドラマになると「いい話に振っちゃいましょう」ってなりがちなのですが、「ありのままの夫婦をちゃんとやりたい」ということだけは死守しました。 水川さんが、きつすぎる言葉遣いや「おとなのおもちゃ」などの単語も何の問題もなくやりきってくれたことは本当に大きかったです。そういうところを全部ちゃんとやらないと意味がない作品なので。赤パンツ姿にもなっていただいて感謝しています。

 

—— インパクトありましたよね。色がさめた感じとか、時の流れ、夫婦の歴史を感じました。見ている分には楽しい夫婦です。相当なエネルギーが要りそうなので、当事者にはなりたくないですけれど(笑)

 

足立監督 

あれだけぶつかりあったらクタクタになるだろうな、と言われて確かにそうかもって気づきました(笑)。入れたかったエピソードの話ですが、小さなところでいうと、痴漢未遂のシーンなどは外したくないポイントでしたね。

 

—— あれもリアルな話ということでしょうか?

 

足立監督 

映画では、香川でのエピソードになっていましたが、酔っ払ってパンツ丸出しで寝てしまっている女の子を歌舞伎町とかでよく見かけましたね。「見えてる、寝てる」とちょっと立ち止まっているときに、お巡りさんから「何しているの?」と質問されたことはあるけれど、実際に連れて行かれたことはないですよ(笑)

 

—— そのほかリアリティにこだわった部分はありますか?

 

足立監督 

濱田さんがお風呂に入るときに、すっぽんぽんになるシーンですね。役者さんなので、女優さんの前でそういったシーンを撮影することはこれまでも経験ありだったのですが、今回は子役の前でのシーン。お風呂に入る前なのに、パンツだけ履いているのはリアルじゃないから、履かずに演じてもらいました。「目が点になってたよね、(新津)ちせちゃん」って照れてましたけど。

 

—— 娘役の新津さんも、いい味出していましたよね。お父さんとの二人のシーン、すごく好きです。

 

足立監督 

夫婦にフィーチャーする物語なので、子役は誰にしようかということは、正直真剣に考えていませんでした。ですが、ちょうどこの台本を使ってワークショップをやっていたときに、お母さんの付き添いでちせちゃんが来ていたので、子役のパートをやってもらったんです。そしたら、すごくよかったので、そのまま映画に出てもらったという経緯なんですよ。

 

—— そんな出会いがあったのですね。本作は10年に渡る夫婦の軌跡を描いています。ここまでさらけ出してもらったら、5年後、10年後を見てみたいです。

 

足立監督 

小説ではその後というか、この夫婦の別の話を書いています。でも、東京国際映画祭の上映後にも「この夫婦のその後が観たい」という声をたくさんいただいたので、機会があれば作りたいという気持ちはあります。

 

—— この夫婦が、節目節目の出来事をどのように乗り越えていくのかを見届けたいです。って、覗き見したいだけなんですけど(笑)。夫はクズ全開、妻は罵詈雑言を浴びせまくる。だけど夫婦には愛を感じるし、微笑ましく思えます。魅力的な夫婦として描くために工夫したことはありますか?

 

足立監督 

工夫というよりは「世の中にはこんなにひどい言葉遣いをする嫁がいるんだぞ。旦那をここまでいう人がいるんだぞ」ということを世に訴えかけたかっただけなんです。と同時に、でもこんな風に罵りはするけれど、1パーセントの愛情なのかなんあのかわからないけれど、こんなクズ夫と夫婦でいようといてくれる人というのはすごく魅力的なんじゃないかなと思いました。そういうところを観てほしいという気持ちで書いた気がします。