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水族館で子どもが学ぶ「観察する力」と「海の怖さ」

ライフスタイル

2019.10.26

2019.12.01

世界の海で暮らす珍しい魚たちや、海底で暮らす深海生物など、さまざまな水中生物に会える水族館は子連れファミリーにも人気のレジャースポットです。

 

特に海の人気者・イルカやアシカのショー、普段見ることのできないサメやエイなどの大きな魚には大人も夢中。非日常を味わえる水中景色を眺めながら、「あっちに珍しい魚がいるよ」「イルカショーを見に行こう」と、つい親の好奇心に合わせて子どもを誘導してしまいがちに。しかし、水族館で最も子どもの興味を惹く生き物は「カエル」と「カメ」なんだとか。

 

今回は、子どもが水族館で得る体験や学びについて、水族館プロデューサーの中村元さんにお話を伺いました。

 

PROFILE 中村元さん

1956年生まれ。三重県出身。鳥羽水族館に22年間務めた後、45歳の時に水族館プロデューサーとして独立。新江ノ島水族館やサンシャイン水族館など、日本各地の水族館の新規立ち上げやリニューアルを手がけ、海外からの依頼にも対応する。水族館文化の発展のため、トークショーの定期開催や、著書も多数執筆している。

 

水族館プロデューサーとしての仕事


―ターゲットに合わせた展示で集客を回復―

 

日本で唯一の水族館プロデューサーとして、国内外で活躍する中村元さん。2017年に二度目のリニューアルを手がけたサンシャイン水族館(東京)や北の大地水族館(北海道)、広島マリホ水族館(広島)など、集客に悩む各水族館のターゲット層を意識した企画や斬新な展示方法、弱点を武器に変えるプロデュースで増客に成功しています。

 

「“どんな人をターゲットにするか”を、水族館のある町の分析とともに考えることが大切です。サンシャイン水族館の場合、池袋に来る人や、水族館と同じ建物に入っているショッピングフロアに訪れる多くが女性客。流行りやおしゃれに敏感な若い世代を水族館に呼び込めたらと思ってプロデュースしました」

 

サンシャイン水族館リニューアル後の新展示として話題を呼んだのが「天空のペンギン」。水族館が高層ビルの最上階にあるという利点を生かし、広い空と都会のビル群の中を羽ばたくかのように泳ぎ回るケープペンギンを見ることができる展示です。その真新しい展示方法と、普段見ることのできない真下から見るペンギンの姿に、お客さんの視線は釘付けになりました。

 

では「子ども」が夢中になる展示や生き物とはなんでしょうか。その問いに中村さんは「カメとカエル」と意外な答え。

 

「“子どもは水族館が好き”というイメージがありますが、ちょっと違う。子どもは水族館よりも“動物園”が好きなんです。なぜなら、ライオンやクマ、ゾウなどの動物園にいる動物たちは、子どもたちが読むさまざまな絵本にキャラクターとして登場し、日常的に親しみを感じられるからです。

 

水族館に来て楽しんでいるのは実際は大人の方。それは水族館特有の非日常感や、水中景観に癒やしを感じているからです」と中村さん。しかし子どもにとって「水族館だからこそできる体験もある」と続けます。

 

子どもが水族館で得る体験

―「生き物」としてのリアルな存在を認識する―

 

「水族館に来てくれたお子さんに、『何に会えて嬉しかった?』『どのコーナーが楽しかった?』というアンケートをしたところ、『カメ』『カエル』『ペンギン』と答える子が圧倒的に多かったんです。

 

動物園でもこれらの生き物は見ることができますが、ライオンやゾウなどの大きな動物に人気が集中し、見逃してしまいがち。でも水族館では、動物園では興味を持たなかった生き物たちに興味が集まり、集中して観察することができるんです」

 

普段読む絵本の中に登場していたカメやカエルやペンギン。イラストや写真ではなく、動いているリアルな姿を観察することで「動きが早い」「絵本で見たよりも模様が複雑」など、子どもはその存在を「生き物」として改めて認識することになると中村さんは話します。

 

「カメの展示コーナーの前から動かず見入るお子さんの姿を多く見かけます。動物園の動物は安全上、柵越しに見ることがほとんどで、観覧者と数メートルの距離がありますが、水族館では数センチのガラス越しに生物を観察することができます。生き物をより間近で見られるということが水族館の利点ですね」 

 

さらにアシカやセイウチなどの海獣は、異種に対して興味を持つため、人がすぐそばにいても闘争心を出さない特性があるそう。中村さんがアドバイザーを務める伊勢シーパラダイス(三重)では、セイウチやアザラシに触れ、一緒に写真を撮ることができる柵なしふれあい展示を実施。これはさぞかし子どもが喜ぶ企画…と思いきや2割くらいの子が泣いてしまうそうです。 

 

「思っていたよりも大きい。鳴き声にびっくりした。ヒレで床を叩く姿が怖かった。間近で見て子どもなりに感じるものがあったからの反応です。想像と違っていたとか、恐怖を感じたとしても、子どもにとっては良い経験になるはずです」と中村さんは話してくれました。

 

水槽越しに感じる、海の世界

―水中の怖さを知るー

 

間近で見たセイウチやアザラシに泣き出す子がいたように、水族館の水槽に「海の恐ろしさ」を感じる子もいると話す中村さん。

 

監修を務めた江ノ島水族館の展示では、日本の海の「恐れ」を表現。暗く深い海底を思わせる水槽には一筋の光が差し込み、あえて水槽内の見通しを遮るよう設置された岩や、造波装置によって生み出される力強い波に揺れる海藻。その水景は自然環境の美しさとともに海への畏怖をも感じさせ背筋がゾクゾクしてくるはず。「海や山には神様や妖怪がいる」という「アニミズム」の考えを元に企画した水槽の前では「怖い、嫌だ」と近づきたがらない子もいるそうです。

 

中村さんの手がける水槽は、いずれも奥行きがわからないように作られ、海の深さや広さを感じられるように設計されています。大人にとってそれは癒やしを感じる世界でも、子どもにとっては薄暗く、何者かが潜んでいそうな「得体の知れない世界」に映るのでしょう。

 

中村さん自身も、子どもの頃に行った水族館で「水中を一反木綿のようなバケモノが笑いながら泳いでいた」という記憶が残っており、当時「海は怖いもの」と強く感じたそうです。その後、その「一反木綿のようなバケモノ」は「アカエイ」だとわかったそうですが、子どもながらに、感性を刺激され、海の怖さを教えてくれた貴重な出会いだったに違いありません。

親が心がけるべき鑑賞のポイント

―子どもの集中を遮らない、大人目線で促さない―

 

例えば一つの水槽の前で子どもが長時間居座ってしまったとき、大人は「他にもたくさん生き物がいるのに」と別の水槽に促したくなるでしょう。中村さんは「そこはこらえて、子どもが興味を持ったものを、好きなだけ観察させてあげてください」と言います。 

 

「興味を持って観察を始めたということは、子どもにとっては『新しい発見』を体験している最中です。『あれを見て、これを見て』と親が促さずに、子どもに任せて満足するまで十分に時間をとってあげてください」 

 

一つのコーナーに滞在時間のほとんどを費やしたとしても、それで良しとする寛容さが親には必要と話す中村さん。そうすることで「観察するためのテクニック」が自ずと身につくそうです。

 

さらに子どもを抱き上げて大人の目線で見るのではなく、親が子どもの隣にしゃがんで「子ども目線」で観察してほしいと続けました。 

 

「低い目線で観察できるのは子どものときだけ。低い目線で見上げる水中の世界は、波紋を広げる水面まで見ることができ、大人の目線よりも深く広く映ります。子ども目線での『発見』を大切にしてあげてほしいです」と締めくくりました。

 

 

著書紹介『中村元の全国水族館ガイド125』

日本全国125箇所の水族館を訪問取材。水族館プロデューサーとして、また観覧者としての二つの視点で解説する。自身が撮影した美しい水塊写真にも魅了される一冊。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/小林キユウ

取材協力/サンシャイン水族館

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