水槽越しに感じる、海の世界

―水中の怖さを知るー

 

間近で見たセイウチやアザラシに泣き出す子がいたように、水族館の水槽に「海の恐ろしさ」を感じる子もいると話す中村さん。

 

監修を務めた江ノ島水族館の展示では、日本の海の「恐れ」を表現。暗く深い海底を思わせる水槽には一筋の光が差し込み、あえて水槽内の見通しを遮るよう設置された岩や、造波装置によって生み出される力強い波に揺れる海藻。その水景は自然環境の美しさとともに海への畏怖をも感じさせ背筋がゾクゾクしてくるはず。「海や山には神様や妖怪がいる」という「アニミズム」の考えを元に企画した水槽の前では「怖い、嫌だ」と近づきたがらない子もいるそうです。

 

中村さんの手がける水槽は、いずれも奥行きがわからないように作られ、海の深さや広さを感じられるように設計されています。大人にとってそれは癒やしを感じる世界でも、子どもにとっては薄暗く、何者かが潜んでいそうな「得体の知れない世界」に映るのでしょう。

 

中村さん自身も、子どもの頃に行った水族館で「水中を一反木綿のようなバケモノが笑いながら泳いでいた」という記憶が残っており、当時「海は怖いもの」と強く感じたそうです。その後、その「一反木綿のようなバケモノ」は「アカエイ」だとわかったそうですが、子どもながらに、感性を刺激され、海の怖さを教えてくれた貴重な出会いだったに違いありません。

親が心がけるべき鑑賞のポイント

―子どもの集中を遮らない、大人目線で促さない―

 

例えば一つの水槽の前で子どもが長時間居座ってしまったとき、大人は「他にもたくさん生き物がいるのに」と別の水槽に促したくなるでしょう。中村さんは「そこはこらえて、子どもが興味を持ったものを、好きなだけ観察させてあげてください」と言います。 

 

「興味を持って観察を始めたということは、子どもにとっては『新しい発見』を体験している最中です。『あれを見て、これを見て』と親が促さずに、子どもに任せて満足するまで十分に時間をとってあげてください」 

 

一つのコーナーに滞在時間のほとんどを費やしたとしても、それで良しとする寛容さが親には必要と話す中村さん。そうすることで「観察するためのテクニック」が自ずと身につくそうです。

 

さらに子どもを抱き上げて大人の目線で見るのではなく、親が子どもの隣にしゃがんで「子ども目線」で観察してほしいと続けました。 

 

「低い目線で観察できるのは子どものときだけ。低い目線で見上げる水中の世界は、波紋を広げる水面まで見ることができ、大人の目線よりも深く広く映ります。子ども目線での『発見』を大切にしてあげてほしいです」と締めくくりました。

 

著書紹介『中村元の全国水族館ガイド125』

日本全国125箇所の水族館を訪問取材。水族館プロデューサーとして、また観覧者としての二つの視点で解説する。自身が撮影した美しい水塊写真にも魅了される一冊。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/小林キユウ

取材協力/サンシャイン水族館