2019.09.19
2021.03.16
たくさんの夫婦を取材していると「結婚するときに「離婚届」を書いた」という話をしばしば耳にします。浮気防止や離婚したくなった時の切り札など、物騒なことを想像させますが、妻たちに話を聞いてみると、予想外にも「結婚生活が円滑になりますよ」というお答えが多数。「記入済みの離婚届」を手元に置く理由と、その経緯を聞きました。
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■持っているだけで絶大な安心感(麻央さん/34歳/事務員)
旦那の浮気癖は、結婚後もあらたまることはありませんでした。そのうえ隠すのも下手なので、彼が浮気をするたびに私が感づき喧嘩へ発展。でもそのたびにごまかし続け、怒る私をよそに飄々としていたんです。
反省のない旦那にいら立ちが募って、日ごろからきつく当たっていたような気がします。そんなとき「離婚届を持っていれば、もしものときにすぐ突きつけられる」と思い、市役所に用紙を取りに行ったことがありました。
初めて手にした離婚届は、紙一枚のはずなのにとても重たく、思わず手が震えたのを覚えています。でも、家に帰って自分の記入箇所を書き終えたとき、なぜだか胸がスーッとするのを感じたんです。それと同時に募っていたイライラも一気に消えて。
離婚届という〝切り札〟を手に入れたことで、心の余裕ができたでしょう。「これを出せば、いつでも彼を追い詰められる」と思うと余裕を持って接することができ、そのおかげか、かえって夫婦仲は良くなったと思います。離婚届は私の「精神安定剤」ですね。
■結婚生活はいわば〝執行猶予生活〟(まどかさん/37歳/看護師)
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私たち夫婦は、婚姻届を書いたと同時に「離婚届」も記入しました。これは、夫婦で話し合って決めた、お互いに対する誓いのようなもの。もちろん、お互いの友人に頼んで証人欄も埋めました。「提出すれば離婚が成立してしまう」という物騒な代物です。
なぜ私たちがこのような決断をしたのかというと、私たちには両者とも浮気の〝前科〟があるからなのです。のちに2人で話し合ってお互いを許すことにしたのですが、結婚するときには、「二度目はない」と誓い合いました。
この状態は要は「結婚してから死ぬまで執行猶予期間中」ということ。「どちらかが再犯に及べば、即刻離婚届を提出」というルールのもと、お互いを信頼し合えているんです。
証人になってくれた友人からは「こんなことをしなければ信用できないなんて寂しいね」と言われましたが、私たちにとってはむしろ逆です。その証拠に結婚してから10年間、私たちはずっとラブラブなまま〝執行猶予生活〟を謳歌しています。
■額縁入りの「離婚届」が飾られたリビング(志保さん/28歳/パート)
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結婚してからずっと、旦那のモラハラに悩んでいました。私のすることなすことすべてにケチをつけ、言い返すと「女のくせに偉そうな口をきくな!」と激怒されてきたんです。家事育児はすべて私ひとりに押しつけ、自分はまるで王様みたい。
そのくせ自分ひとりでは、お米を炊くことすらできません。そんな旦那の横暴に我慢の限界を迎えたある日、私は以前から計画していたことを実行に移したんです。それは、自分の欄を記入した離婚届を額縁に入れ、リビングに飾ること。旦那に対する私の決意の証でした。
その日仕事から帰宅した旦那は、明らかに離婚届の存在に気づいたようですが、普段通りの私の態度を見てなにも言えないようでした。しかしその日を境に、彼は人が変わったように私に優しくなったんです。
あれから3年間、わが家のリビングには半分だけ記入された離婚届が飾られたままです。子どもがもう少し大きくなったら取り外そうと思っていますが、それまでは私の心の拠り所、そして覚悟の証として、掲げておこうと思っています。
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「実際に提出する」ということになれば、また違った意味合いを帯びてきますが、お話を聞いたご夫婦にとって「記入済み離婚届」は、結婚生活の〝保証書〟のようなものなのかもしれないと思いました。できれば使用することのないよう、願っています。
ライター:葛西 明