支援は細く、長く、柔軟に

——療育=特別な訓練や治療をする場ではないんですね。

 

塩川さん:

療育とは、うがった言い方をすれば「その子の発達特性や発達レベルを踏まえた丁寧な育児」ということになりましょうか。

 

できないことをできるようにするのではなく、できないことは工夫・サポートする、できることはもっと上手にできるようにする、そのための働きかけが療育、あるいは発達障害のある子どもを支援していく上での基本的なことです。

 

手伝ってもらったら、工夫したら、上手にできた、という経験は子どもに自信をつけます。また、できたことを褒められたり認められたりすることには、子どもの情緒を安定させる作用もあります。

 

「丁寧な育児」というと、発達障害のある子を育てるお母さんの中には、「この子が小さいうちは仕事を辞めて育児に集中すべきだろうか」と悩まれるかたもおられます。誤解して欲しくないのですが、育児の仕方が発達障害の原因ではありません。また、発達障害は「幼少期に集中的に親がサポートしてあげれば治る」ものでもありません。

 

これは印象ですが、幼児期に集中的に厳しい療育訓練を受けたお子さんの中には、思春期・青年期に情緒的な問題を抱えてしまうケースがあります。

 

支援は細く長く、その子の発達経過に応じて柔軟に続けていくという考え方のほうが良いと思います。人間は一生発達する存在ですから、支援も一生続けていくことになります。そのためのペース配分を考え、ご自身のライフプラン・自己実現と子どもの支援をバランスよく考えていくことが大切です。

 

——支援は一生続けていくもの…。そう聞かされると、親としては重い責任を感じるかもしれません。

 

塩川さん:

でも定型発達と呼ばれる「普通」の人でも、なんでもかんでも自分ひとりでやっている訳ではありませんよね。生きている限りはいろんな人からいろんな場面で支援を受けています。

 

「自立」というのはなんでも自分一人でできるということではなく、「自分に必要な支援を自分から利用できるようになる」ことだと私は考えています。

 

発達障害のある子どもの育児においても、目指すゴールは、「子どもが、自分に必要な支援を自分で利用できるようになる」ことで、そのためにすべきことは発達特性の偏りあるいは発達障害についての理解者を増やすこと、支援者(サポーター)を増やすこと、そして社会からの支援システムを構築することです。前にも言いましたが、支援が空気のように得られる地域社会、これこそが私たちの地域社会がめざすべきゴールです。

 

これは確信を持って言えることですが、発達障害のある子どもにとって生きやすい社会は、誰にとっても生きやすい社会になるんです。