母子密着で信頼関係を築くゴリラ。一方人間は…

ゴリラの親子

──子どもの共感力や社会性を育てるため、親ができることは何でしょうか。

 

山極さん:

人間の成長過程で、とくに大人のサポートが重要な時期が2回あります。最初は「乳離れ期」、次が「思春期スパート期」です。

 

生まれてから小学校入学前までの乳離れ期は、子どもにとって「世界に自分が受け入れられている」という安心感を得るべき重要な時期です。ここで安心感が得られないと、その後まわりの人と信頼関係をきちんと結べなくなってしまいます。

 

ゴリラであれば、わざわざそんなことを意識して子育てをする必要はありません。ゴリラの赤ちゃんは、大人ゴリラの体重が200㎏なのに対して1.6㎏と小さく生まれ、生まれた直後から強い握力でお母さんにしがみつき、密着したまま何年も過ごすから、「世界に自分が受け入れられている」という感触を失わずにすむんです。

 

一方、人間の赤ちゃんは体重50㎏程度の大人から3㎏と重い割合の体重で生まれます。重いけれども生き物として未成熟な状態で生まれるため、ひ弱でお母さんにつかまることができません。そのため、赤ちゃんをお母さんがずっと抱き続けることは困難で、お母さん以外の大人の手も借りながら、共同で保育されることが必要です。人間の赤ちゃんはそのように生まれついてくるんです。赤ちゃんが生まれてすぐ、早い段階でお母さんの手から離れてしまうからこそ、お母さんやそれ以外の大人たちは意識して小さな子に安心感を与える必要があるのです。

 

──「ワンオペ育児」に悩むママは多いのですが、そもそも人間が一人で育児をするということは自然の摂理に反しているんですね。それでは、具体的にどうすれば「自分は世界に受け入れられている」安心感を子どもに与えてあげられるでしょうか。

 

山極さん:

「子どもと時間を共有する」「子どもの時間に寄り添う」という気持ちを持ちましょう。子どもが感じる時間の流れは大人とは違います。食べる速さ、歩く速さ、ものごとを考え、納得する速さ、すべてが違います。子どもに世の中のことを教え、納得させるには、子どものペースに任せなくてはなりません。大人の理屈や時間に子どもを合わせようとして、がみがみ叱りつけたりしないことです。子どもと向き合っているときに、効率や生産性とかいうことを考えてはいけないんです。

 

今回のコロナ禍でステイホームになり、子どもと一緒にいる時間が増えたという家庭は多いと思います。そこで親は在宅ワーク、子どもはテレビやゲームという別々のことをしてばかりでは時間を共有したことにはなりません。

 

ともに食事をする、子どもと一緒に遊ぶ、家事を親子でする。それが、「子どもと時間を共有する」ということなのです。そうすることで、親は子どもの性格や個性、ペースがよく分かり、子どもはそんな親を通して「自分は世界に受け入れられている」と感じられるようになります。