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「苦手があることはしょうがない。やれることをやろう」。親としてポジティブにわが子の発達障害を受け止めた

子育て

2020.03.17

知的発達に問題がなくても、「読み書き」に困難が見られる「発達性読み書き障害」。「頑張っていないから」「ちゃんと勉強していないから」と誤解され、本人や家族でさえも見過ごしてしまうことの多い発達障害です。

 

今年の229日に発売された書籍『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の著者で漫画家の千葉リョウコさんは、長男と長女、2人のお子さんに発達性読み書き障害という判定を受けました。千葉さんとお子さんたちがどのように発達性読み書き障害と向き合ったのか、また親として家庭内で意識していたことなどを伺いました。

 

PLOFILE:千葉リョウコ

漫画家。千葉県在住。夫と長男(専門学校生)、長女(高校生)、次男(小学生)とトイプードルの5人と1匹暮らし。長男が小学6年生のとき、また長女も中学2年生の時に「発達性読み書き障害」だと判明。著書に『うちの子は字が書けない――発達性読み書き障害の息子がいます』など。

 

長男は小学6年生で、長女は中学2年生の時に「発達性読み書き障害」と判明


──前作の著書『うちの子は字が書けない――発達性読み書き障害の息子がいます』では、長男のフユくんが発達性読み書き障害だとわかり、トレーニングを受けながらの成長と変化が描かれましたね。フユくんの「読み書きの苦手」に気づきはじめてから発達性読み書き障害だと判明するまでに、4年ほどかかったそうですが…?

 

千葉リョウコさん:

3で通級指導教室に通うことになった時は「これで苦手な読み書きもなんとかなるだろう」と思っていました。でも3年間通級しても変化がなかったので、次第に「あれ?なんで?」と疑問と不安を覚えるように。

 

6のとき、当時通級していたクラスの先生から「保護者の方もどうぞ」と講演会のチラシを渡されました。その講演会で講師として呼ばれていたのが、発達性読み書き障害の研究と指導をしている宇野彰先生でした。

 

宇野先生の講演を聞いているうちに「うちの子、これだ!」と確信。帰宅後すぐに宇野先生宛てにメールをし、面談の機会を得ることができました。この講演会に行かなければ宇野先生と繋がることはできなかったし、「発達性読み書き障害」だとわかるのももっと遅れていたと思います。現在は宇野先生のLDDyslexiaセンターでは新規の受付は年に一回だけですのでラッキーでした(HPをご参照ください)。

 

──担任の先生や通級クラスの先生でさえも、フユくんの発達障害に気がつかなかったというところに、「知られていない障害」なんだと実感させられますね。

 

千葉さん:通級クラスの先生方も熱心に見てくれていたし、私も注意して見てはいたのですが、わが子の発達障害に気づくのが遅かったのは反省点です。でも気づきからどう行動するかが大事。発達性読み書き障害の判定を受けてからは、これまでよりも一層「子どもに寄り添いながら、どうやって将来に繋げてあげるか」を考えて行動していました。

 

──フユくんに続いて、長女のナツさんも発達性読み書き障害だと分かったそうですね。

 

千葉さん:

ナツが中学2年生の時に、「I am」を「It」と読んでいて、「もしかして」と思い、検査したところ、ナツも発達性読み書き障害だとわかりました。特に英語の読み書きが極端に苦手で、「f」や「y」などの上下に突き出たものはわかりやすいけれど、「w」が前についているものに関しては「全部同じに見える」と言っていました。「Who」「Why」「When」なんかは全く判断できず、全部同じ単語に見えるそうです。

 

──英単語の中でもわかりやすいものと、わかりにくいものがあるということですね。

 

千葉さん:

英語を形で捉えているんですよね。「o」が二つ続いている単語…例えば「wood」とか「book」などの単語は印象的で覚えやすく、「なんとなく判別できる」そうです。

 

ナツは9年間英会話教室に通わせていたこともあってか、リスニングのテストは割と高得点を取れるんですが、文法問題は0点と差が大きくて。英語以外に対しても「興味がないものはやりたくない」というはっきりした性格で、覚える気もないわけで…。

 

──「覚えようとしていないから、覚えられない」と受け止めてしまいそうになるのが、発達性読み書き障害の難しいところですよね。ナツさんの家庭教師が「2年かけてようやく理解できた」とありましたが、学校側の対応や理解はいかがでしたか?

 

千葉さん:

ナツの担任の先生には、長男・フユの発達性読み書き障害の症状について書いた前作の本を渡して、「できれば先生皆さんで回し読みしてほしい」と伝えました。それでも難しい部分や課題はたくさんあって、補習で残されたときに先生から「これを全部書き取りするように」と言われ、「できない!」とパニックになって、泣きながら帰ってきたりすることも。

 

先生側も「本当に読めないの?書けないの?」と半信半疑だったんだと思います。私も学校に呼び出されて、「何文字以上書けないんですか?どこまでができて、どこからができないんですか?」と面談で聞かれたこともありました。ナツは愛想も良くて、コミュニケーション能力も語彙力も高いので、なおさら「普通」に見えるんでしょう。

 

──同じ学校内においても、先生によって対応や理解に差が生まれてしまうわけですね。ナツさんは高校で「合理的配慮」をしてもらうことになったということですが?

 

千葉さん:

ナツ本人の希望もあって、高校では「合理的配慮」を受けることになり、授業中の板書をiPadで写真に撮っておいてOKと言うことになっています。

 

ナツは自分から周りに「私は読み書きができないから教えてね!」と言える子だったので、友達にも「ノートを撮らせて」と言って写真で記録しながら勉強しています。気軽に頼れる友達がいるということは安心ですし、頼もしいですね。

 

──ナツさんのように自分から「できない」と公言して、周りに頼ることも自分らしく学校生活を送るための一つの方法ですね。

 

千葉さん:

フユはナツのようにコミュニケーションが得意ではないのですが、真面目な性格のおかげか、友達から親切にされることも多かったようです。ただ、合理的配慮についてはクラスメイトからの目を気にして「自分だけ特別扱いは嫌だ」と拒否していました。「配慮してもらわなくても、自分が努力するから大丈夫」と。

 

──発達障害のある子にとって、どうすればもっと授業やテストが受けやすくなるのかは、学校側の柔軟な対応が求められてきますね。その子の特性や性格に合った対応や支援が増えていってほしいです。

 

コミュニケーションが活発な家庭環境で兄妹仲も良好。「悩みがあったら必ず相談」が口癖だった


──千葉さんの著書では、フユくんとナツさんが前向きに発達障害と向き合っている姿勢が印象的でした。千葉さんが家庭で子どもたちに接する時に意識していたことはありますか?

 

千葉さん:

私はもともとネガティブ思考なんです。でも「苦手があることはしょうがないことだから、今やれることをやろうよ」とポジティブに切り替えて2人に話していました。

 

それから「悩みがあったら絶対に相談しなさい」と言うのは3日に一回くらいは言っていたと思います。

 

──ナツさんも発達性読み書き障害だとわかった後、兄妹の関係性に変化はありましたか?

 

千葉さん:

発達性読み書き障害だとわかった後も、それ以前も、ナツがフユに相談している様子をよく見かけました。相談相手であり、理解者がすぐそばにいるというのは、ナツにとってもフユにとっても良かったんだと思います。

 

普段から兄妹の仲も良くて、ナツはもちろん、末っ子の次男も「何かあったらお兄ちゃんに相談」という感じ。家族みんながアニメや漫画好きという共通点もあって、コミュニケーションはもともと活発でした。

 

──専門機関でのトレーニングを受けて、読み書きの能力にはどのような変化がありましたか?

 

千葉さん:

フユが4年間通級して半分も書けるようにならなかったカタカナは、専門機関のトレーニングによって5カ月で習得。またこれまでほとんど覚えることのできなかった漢字も「父の“ハ”らは“メ”タボ」などの文章にして練習したところ、本人も驚くほどスムーズに覚えることができました。

 

小学校6年から高校3年まで専門機関でトレーニングをし、自宅でも学校に行く前の早朝練習を積み重ね、漢字については「小学校3年生で習うレベル」まで読み書きできるように。

 

ナツも検査で英語だけでなく、ひらがなとカタカナにも若干の苦手があることがわかりました。英語については本人が「トレーニングしない」という選択をしたので、少しの間だけ通ってひらがなとカタカナを完璧に習得することができました。

 

──「その子に合った練習法」が発達性読み書き障害ではいかに重要かがわかりますね。

 

千葉さん:

フユが高校3年生の頃、「僕もういいかな」と専門機関でのトレーニングを卒業することを自ら決断しました。練習の仕方も身について、自信がついたのかもしれません。

 

苦手を克服するための方法を身につけながら、自立へとつなげていってほしいですね。

 

好きなことではなく、「嫌いじゃないこと」から見出す未来の可能性


──「好きなことではなく、嫌いじゃないことを考える」という宇野先生の言葉が印象的でした。この言葉はフユくんとナツさんの将来の選択肢を広げるきっかけになったのでしょうか。

 

千葉さん:

発達性読み書き障害の子にとって「将来どの仕事に就くか」の選択をするとき、「苦手を回避してできる職業」を見つけることが大切ということなんでしょうね。宇野先生から「嫌いなことからは逃げていいんだよ」と言ってもらえたことは、本人にとっても視野を広げるきっかけになったはずです。

 

フユも当初は「ゲームを作る仕事がしたい」と言っていましたが、そうすると大学進学も考えなければならず、今以上の読み書きの習得も必要で…。結局は「嫌いじゃないことを」ということで、料理の道に進むことになりました。高校卒業後は料理の専門学校に通っています。

 

「今、人生で一番楽しい」と言っていて、アルバイトも始めました。「世間との関わり方」をフユなりに身につけていこうとしている段階なんだと思います。ナツも進路を考える時期にきていて、「自分のやりたいことを学びたい」と、専門学校選びをしています。

 

──フユくんも、ナツさんも読み書きの苦手を抱えたまま、それでも自分らしく将来を見つめて歩み出しました。本書では、発達性読み書き障害の基礎知識から家庭での対応、学校への支援の要請方法など実践的な内容で「今できること」を丁寧に解説しています。お子さんが読み書きに苦手を持っていると感じている方だけでなく、子育て中の方、教育の仕事に携わっている方など、広く読んでほしい一冊です。

 

『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』

著者:宇野彰、千葉リョウコ(漫画) 発行:ポプラ社

内容:40人学級に3人の確率でいる「発達性読み書き障害」。その基礎知識から家庭や学校での対応などをまとめた一冊。元筑波大学教授で、NPO法人LD・Dyslexiaセンター理事長でもある専門家・宇野彰先生による解説と千葉リョウコ先生による漫画で、発達性読み書き障害の子どもたちのために、「今」できることと、「将来」役立つことを考えます。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/緒方佳子

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