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40人学級に3 人の確率で存在するのに、知られていない「発達性読み書き障害」の現状

子育て

2020.03.17

「発達性読み書き障害」をご存知でしょうか。「発達性ディスレクシア」ともいい、知能や聞き取り能力には問題がなくても、文章を読んだり書いたりすることに苦手を持つ発達障害です。カタカナや漢字が習得できなかったり、音読の速度が遅かったり、黒板などの文字を見て写す「視写」が困難だったりと、その症状や重症度もさまざま。学校生活や社会生活を送る上で、周囲の理解と個々に合わせた対応が求められます。

 

現在、発達性読み書き障害の子どもは40人学級中3人の確率で存在し、どの発達障害よりも出現頻度が高いと言われています。しかし大人になってもずっと気がつかないままと言う人も多く、認知度の低い「知られていない障害」でもあります。

 

今回は、今年の229日に発売された書籍『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』の著者でLDDyslexiaセンター理事長の宇野彰さんに、「発達性読み書き障害」の現状について伺いました。

 

PLOFILE:宇野彰

筑波大学元教授、発達性読み書き障害研究会理事長、NPO法人LD・Dyslexiaセンター理事長。医学博士。言語聴覚士。

LD・DyslexiaセンターHP:http://square.umin.ac.jp/LDDX/

 

教師側の認知度も低く、今まで焦点が当てられなかった「発達性読み書き障害」


 

──本書では、共著者である千葉リョウコさんの長男フユくんに続いて、長女ナツさんも「発達性読み書き障害」だと判明したところから始まりました。小学生までは読み書きの習得度は他の子と差はなかったけれど、中学生になってから気がつくということもあるのですね。

 

宇野彰さん:

ナツさんのように英語の読み書きだけが極端に苦手な発達性読み書き障害のお子さんもいます。小学校までの国語のテストの成績も悪くなく、英語の授業が始まってから苦手や習得の遅さに気づくケースも少なくありません。

 

学校内においても「行動面」に問題があるASD(自閉スペクトラム症)やAD /HD(注意欠如・多動症)と比較して、「読み書き面」に問題がある発達性読み書き障害は、授業の流れを止めることもないので、教師陣の目にも留まりにくい「困らない存在」なんです。だからこれまでは教師側の認知度も低く、今まで焦点が当てられなかった原因の一つだと思います。

 

テスト結果などから「この子は勉強が嫌いなんだな」という認識で済まされてしまっていたんです。

 

読み書きのトレーニングによって自信を回復させ、自分で判断する力と行動できる力を伸ばす


──発達性読み書き障害に触れたことがない親や先生は、「もっと勉強しなさい」「繰り返し練習しなさい」と言うしかないわけですね。「努力してもできない」という経験は、本人の自信を喪失させてしまうでしょうね。

 

宇野さん:

そうですね。専門機関であるLDDyslexiaセンターに来る子も「自分はどうせバカだから」「やっても勉強ができないから」と言って、克服することを手放している子が多いですね。センターでは「それは違うよ」と教えてあげるところから始まります。

 

萎縮してしまったり、内向的になったり、どのような方向に二次障害が出るのかは、持っている性質と、家庭の環境も影響してくると思います。

 

厳格な家庭環境で育った発達性読み書き障害のお子さんは、何をするにも「自信が持てない」と言う印象でした。「通常の子」に期待する能力と、「読み書きに苦手を抱えている子」に期待する能力では、目標とする設定が違うわけです。これまでこういった学習障害と触れたことのない家庭では「通常」を求めてしまうのは当たり前のこと。しかし子どもは「期待されてもできない」を繰り返すことで、徐々に自信をなくしていってしまうんです。

 

一方で、「勉強できなくてもかまわない。勉強だけが人生の全てじゃない」と親に言われて育ったお子さんは、発達性読み書き障害でも明るくて元気。「家族に受け入れてもらっている」という印象でした。

 

持って生まれた能力はそれぞれ。例えば、私のように「方向音痴」の人に「なぜ何度も通っている道を覚えられないのか」と問われても、「能力差です」と答えるしかない。読み書きに対しても同じなんです。それぞれの能力に合わせて社会を生きていく力を身につけなければいけません。

 

子どもの「得意・不得意」を親が見極めて、適切な対応をするのはなかなか難しいことですが、「なかなかうまくいかない」という時は、早めに方向転換をしてほしい。求めすぎないでほしいし、無理させすぎないでほしいなと思います。

 

──これまで読み書きが苦手だった原因が「発達性読み書き障害」だとわかり、LDDyslexiaセンターに通うようになったお子さんにはどのような変化がありましたか?

 

宇野さん:

やはり元気になる子が多いですね。それまでの人生「失敗する経験」が多いじゃないですか。だけど「やり方を変えることでできるようになる」わけです。これまでの負の経験にプラスで「成功した経験」が上書きされます。そうするとあまり失敗を引きずらなくなるんですよね。

 

それから読み書きがスムーズにできるようになった子の約半数は、自ら「本を読みたい」と言い始める子が多いです。

 

また、フユくんのように「先生、やり方わかったから卒業してもいい?」と聞いてくる子もいます。私たちにとってそれが目標でありゴールです。読み書きのトレーニングを通して自信を回復させ、自分で判断する力、自分で行動できる力を伸ばしてほしいなと思っています。それができるようになった子には、「困ったときは相談に来てね」と言って送り出します。

 

──トレーニングによって他の子と同じレベルまで習得度を伸ばすことはできるのでしょうか?

 

宇野さん:

LDDyslexiaセンターでは、保護者の希望ではなく「お子さん本人の希望」によって、トレーニング内容や練習量を決めていきます。本人が「どこまで苦手を克服したいか」という意思を尊重してトレーニングを進めます。

 

個々に合わせたトレーニングによって、習得度が同学年の子に追いつくという子は、これまでLDDyslexiaセンターに通っていた子どもたちの中でも、大体ですが2000人中20人くらいと少ないです。

 

小学生の低学年の頃は、ひらがなとカタカナ、漢字は他の子の習得度に追いついたけれども、高学年になってくると漢字の読み書きで差が出てきてしまうとか、漢字は追いついたけれども今度は英語の学習が始まって、その習得が難しかったり。

 

同年齢の平均に追いついたからといって、トレーニングをやめるのかというと、そうではありません。やはり能力的には弱いことに変わりはないですからね。

 

──「小学1年生の夏休み」が、ひらがなの習得度チェックのタイミングだと書かれていましたが…。

 

宇野さん:

ひらがなの読み書きは、小学1年生でほぼできるようになります。就学前のひらがなの読み書きの習得度はほとんどが能力依存で、トレーニングの有無はあまり関係ないということが研究結果でわかっていますが、小1以降はトレーニング次第で変わってきます。

 

ぜひ、小1の夏休みに「子どもがひらがなの読み書きができるかどうか」を一緒にチェックしてあげてください。それで「難しそうかな」と思ったら、学校の発達支援の先生や教育委員会などに相談してみるのがいいと思います。

 

特別支援学級の担当教師だけでなく、学校の管理職と通常学級の教師にも知ってもらいたい


──20164月に施行された「障害者差別解消法」による「合理的配慮」の義務または努力義務について、本書では「現在は過渡期」と綴られていましたね。教育現場での発達性読み書き障害への理解や対応について変化はあったのでしょうか。

 

宇野さん:

特別支援教育を担当している教師の方からのニーズは、徐々に高まりつつあり、教育委員会からも講演会の依頼や相談などの問い合わせが入ってくるようになってきました。これまでの教育現場ではASDAD/HDの情報や対応についての知識が求められてきましたが、研究が進み、それらの知識が浸透してきてようやく「読み書きに問題のある子がいるな」と発達性読み書き障害に関心が寄せられるようになってきたんだと思います。

 

しかし情報を求めてくる先生の多くが「特別支援教育」担当の先生たち。読み書きを苦手とする子は「通常学級」の中にいるわけですから、本当は学校の管理職と通常学級の先生もよく知らなければいけないことです。専門的なことまでとは言いませんが、発達性読み書き障害にはどういう症状を持つ子どもたちがいて、どのように特別支援教育につなげていくべきかを知っていてほしいですね。

 

高校の入学試験についての対応も、教育委員会や地域によって差があるなど、まだ統一が図れていません。発達性読み書き障害の子どもたちが、教育現場において平等な扱いを受けるための仕組みづくりも今後の課題です。

 

──現在、発達性読み書き障害を専門に扱う機関は全国でも3カ所程度。宇野さんが理事長を務めるLDDyslexiaセンターも、定員いっぱいの状態が続いているそうです。宇野さんは読み書きが困難な子どもたちの指導をするかたわら、指導ができる先生を増やすために尽力しています。

 

家庭でも「うちの子、読み書きが苦手かも」と思った時、誰に相談すべきかなど、次の行動につなげるための選択肢を持っておきたいものですね。

 

 

『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』

著者:宇野彰、千葉リョウコ(漫画) 発行:ポプラ社

内容:40人学級に3人の確率でいる「発達性読み書き障害」。その基礎知識から家庭や学校での対応などをまとめた一冊。元筑波大学教授で、NPO法人LD・Dyslexiaセンター理事長でもある専門家・宇野彰さんによる解説と千葉リョウコさんによる漫画で、発達性読み書き障害の子どもたちのために、「今」できることと、「将来」役立つことを考えます。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/緒方佳子

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