2019.06.09
日本代表としても活躍した元サッカー選手の鈴木啓太さん。引退後にアスリートの腸内フローラを解析する会社「AuB」を立ち上げました。
前編「『人間腸が大事』元日本代表・鈴木啓太さん 頭に残る母の言葉」に続き、後編では腸に関する身近な疑問について、お話を聞いていきます!
腸内環境の乱れがストレスにつながる
(前編でも)腸内環境と健康の結びつきについて伺いましたが、腸の問題が、特に私たち働くママの健康に影響を及ぼしていることはありますか?
鈴木さん:
みなさんが思っている以上に、身体のいろんな面に影響してきます。
腸内環境が乱れていると、例えば肌荒れや便秘を引き起こしたり、風邪を引きやすくなったりと身体の不調が出ることがあります。
また、腸内細菌はアレルギー反応を抑える働きもしているので、そうしたデメリットもあるかもしれません。
あとはイライラしやすくなるなど、精神面に影響が出ることもあります。
(前編で)無菌マウスがよく喧嘩するという例がありましたが、腸内環境は人間のメンタルも左右するんですね。イライラしがちだと自省するお母さんも多いと思うのですが…。
鈴木さん:
例えば幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」。脳内で働く伝達物質のひとつで、精神の安定や感情のコントロールに関わることで知られていますが、その90%が実は腸でつくられているんです。
そのため、腸内環境を整えることができれば、セロトニンがきちんと分泌されるようになり、イライラしづらくなると考えられます。
僕もアスリートのころ身体だけでなく心の状態にも気を配っていましたし、食事を見直して整えたら、ちょっとやそっとのことじゃイライラしなくなった、客観的に物を見られるようになった、という知人もいます。
ことわざで「腹の虫がおさまらない」とか「腹をくくる」とか表現するように、日本人は昔から精神的なものと腹を結び付けていますよね。腹の大切さを理解していたんだと思います。
なるほど。イライラするとやる気が起こらず食生活も乱れることがありますが、きちんとした食事をとることが精神的な安定につながるんですね。
次に子どもと腸のかかわりについてお伺いしたいんですが、鈴木さんご自身は、お子さんたちに対して気を付けていることはありますか?
鈴木さん:
漬物や青汁、ヨーグルトなどをはじめ、色々な食材を食べさせることです。
腸内細菌は多様性が大切だとされているので、多くの菌が育つようにしています。人間の身体は食事がベースですから。
あとは、除菌しすぎないことも大切です。
もちろんウイルスやばい菌には気を付けないといけませんが、身体の中に菌を取り込む機会をあまりに少なくしてしまうのはよくない。除菌しすぎると、アレルギー体質になりやすかったり、肥満になりやすかったりするという研究報告もあります。
大切なのは愛情 食事で子どもたちのサポートを
また、子どもの運動能力を伸ばしたいという親も多いと思います。
アスリートのコンディショニング調整の実績などから、親が子どもにしてあげられることはあるのでしょうか?
鈴木さん:
これはアスリートにもお話しするんですが、腸内環境を整えたからといって身体的な部分でのパフォーマンスが直接的に上がるということはないと思っています。
でも、腸内環境がよく、常に身体のコンディションが整っていれば、たくさんのトレーニングができるようになるし、1回のトレーニングも全力で取り組むことができる。結果、それが競技力を上げることに繋がるんです。
筋力や先天的な能力は変えられなくても、コンディショニングに目を向け、各家庭で食事に気を配るなどのサポートをしてあげてほしいです。
お話を聞いていて、子どもたちにも腸の大切さを教えていきたいなと思いました。ご自身の経験から、親はどんな伝え方をするのがいいと思いますか?
鈴木さん:
僕は子どもの頃から母に「腸が大事だ」と言われ続け、それが今だに耳に残っています。だから、言い続けることはすごく大事なんだと思います。
ただ、子どものころはその意味がよくわかっていませんでした。でも、それでいいんです。
母が僕に「腸が大事だよ」と言ってくれていたのは、僕を愛し、一生懸命育てようとしてくれていたから。
例えば嫌いな野菜を食べない時に、食べられるよう努力や工夫をしてあげる。それは、愛情を注いで観察するということですよね。
食育の一環でもあるし、腸内の健康にもつながっているんですが、まず最初にあるのは子どもへの愛情。それが一番大事だと思います。
僕もそういう大きな概念の中で、腸というものを切り取って、子どもたちやみなさんにとって役立つ研究や事業をしていきたいと思っています。
子どもたちにも優しいまなざしを向けて事業に取り組む鈴木さん。
私たちも子どもたちに愛情をたっぷり注ぎながら、健康への意識を高めていってあげたいですね。
PROFILE 鈴木啓太
AuB(オーブ)株式会社代表取締役社長。元サッカー日本代表。「腸内細菌をベースにアスリートのコンディションをサポートし、スポーツ界に還元したい」との想いから同社を設立。これまで解明できなかった一流アスリートの便の傾向を解析し、コンディショニングコントロール法の確立を目指す。また、その知見を一般の方々の健康にも還元すべく、プロダクトやサービス展開を行なっている。腸内フローラ検査サービス「BENTRE(ベントレ)」の詳細・購入はAuBのHP(https://aub.bentre.jp/aub/login)にて。
取材・文/小西和香 撮影/菅井純子