共働きがスタンダードになっても、仕事と家庭の両立にはいまだ多くの女性が悩んでいます。

 

今回お話を伺ったサル山ハハヲさんも、そんな女性のひとり。彼女がインスタグラムに投稿した漫画『社畜フルタイムワーママが会社を退職した話』は、まさに働く女性の心の叫びです。

 

有能で将来を期待され、やる気もあった女性がなぜ会社を辞めることになったのか取材しました。

朝の通勤電車でリュックに嘔吐した

── 自称社畜だったサル山さんが、通勤電車内で嘔吐したエピソードが衝撃でした。第二子妊娠中で、つわりの時期でしたね。

 

サル山さん:

朝の通勤電車で気持ちが悪くなり、頭が真っ白になったんです。私のせいで満員電車を止めることは許されないと思って、自分のリュックの中に盛大に嘔吐してしまいました。

 

駅のトイレに駆け込んで吐瀉物まみれの自分を鏡で見たときは、惨めで悲しくて。自分は何をやっているんだろう…という思いが込み上げ、そこで「退職」の二文字が頭をよぎりました。

 

一人目の育休明け、なんなら妊娠中からずっと大変でしたが、社畜精神で乗りきってきました。でも、この出来事がきっかけで働き方を見直すようになりましたね。会社のために自分を犠牲にしてまで働くのはやめて、自分の命を大切にしようと思うようになりました。

 

 

 

── 二人目の育休明け後に会社を辞めたサル山さんですが、それまではどんなお仕事をされていましたか。

 

サル山さん:

新卒でデジタルコンテンツを制作する会社に入社し、10年間ほどクリエイター職をしていました。当時は、忙しいときは残業だけで月200時間を超え、1か月間休みなし、当然のように社中泊…、絵に描いたようなブラックな働き方をしていました。

 

それでも、仕事が好きで職場の人間関係もよかったので、子どもを産むまでは会社を辞めたいと思ったことはほとんどありませんでした。

 

性差なく働けて、成果で評価してくれる会社の体制も自分に合っていたんだと思います。

── 激務をこなしながら、無事一人目のお子さんを出産されました。当時は仕事と育児の両立について、どう考えていましたか?

 

サル山さん:

私と同じ職種で育児をしている女性がいなかったので、正直まったく想像ができませんでした。

 

でも、これまで持ち前のド根性でいろいろなことを乗り越えてきたので、今回も「頑張ればなんとかなるやろ!」という謎の自信があったんですよね。

 

実際に、一人目を妊娠・出産したときは根性でなんとか乗りきりました。

先駆者として葛藤の日々

── 男性ばかりの会社にとって、まさにサル山さんが先駆者だったわけですね。

 

サル山さん:

う〜ん、でもやっぱり日々わだかまりはありました。

 

妊娠中、つわりを理由に取得できる柔軟な休暇制度の設計や在宅ワークの導入など、職場環境の改善を幾度となく働きかけましたが、それらが認められることもなく、仕事量の調整もしてもらえませんでした。

 

それどころか二人目の妊娠中は仕事量が増えましたね…。

 

── というと?

 

サル山さん:

上司に妊娠中の後輩のサポートをするように頼まれたんです。同じ妊婦だからという理由で。普通体調が不安定な妊婦に、別の妊婦のサポートは頼まないですよね。ありえないと思いつつ、それでも引き受けてしまうのが社畜の怖いところです…。

 

1回目の妊娠中にド根性で乗りきってしまったのが裏目に出たとつくづく後悔しました。

 

結局私自身つわりで毎日嘔吐している状況なのに、減らないどころか増える仕事、上司と部下の板挟みのストレス、長男のイヤイヤ期まで重なり、精神的にも体力的にもギリギリでした。

育休前と変わらない仕事量で給与はダウン

── 心身ともにギリギリだったところに、追い討ちをかけたのが給与体系の制度変更だったとか。

 

サル山さん:

制度変更前は成果主義だったので、結果を出せば労働時間が短くても、給与は下がりませんでした。

 

長男を出産後は時短勤務で復職していましたが、そのシステムを最大限生かし、知恵を絞って働き方を工夫し、フルタイムで働いているときと変わらない評価をいただいていたんです。

 

それが新しい給与体系になると、どれだけ成果を出しても、時短勤務ということで大幅に給与が下がるようになってしまいました。

 

上司からは、育休前と変わらない仕事内容を求められていたので、時短勤務という選択によって、労働と給与が見合わなくなるくらいなら、フルタイムで働いたほうがいいと思い、フルタイム勤務で復職したんです。

 

── 実際、二児の未就学児を育てながらのフルタイム勤務はどうでしたか。

 

サル山さん:

子どもがひとりからふたりになったことで、育児にかかる手間は2倍。それなのにフルタイム勤務になったので、想像以上に毎日が目まぐるしく過ぎていき、子どもと向き合える時間が圧倒的にとれなくなっていきました。

 

平日は子どもと接する時間がほとんどなくなり、子どもに話しかけられても「ちょっと待って!」と後回しにしたり、余裕がなくイライラして小言をぶつけてしまうことも…。

 

夜、子どもたちの寝顔に謝るような生活が続き、仕事へのモチベーションもどんどん低下。体力的にも精神的にも限界で、最終的には退職を選ばざるえなかったというのが正直なところです。

 

── 有能で仕事を愛していたサル山さんを失うことは、会社にとっても損失のように感じます。会社に居続ける選択肢はなかったですか?

 

サル山さん:

いえいえ…。有能かはさておき、20代の頃から「将来は管理職を目指して欲しい」と言われ、自分もそれを目標に突き進んできたのは事実です。

 

会社でキャリアを積み、女性が働きやすい環境を自分がつくってやるという気持ちも少なからずありました。

 

でもね、女性の先輩がいつまでも出世しないんですよ。

 

── その絶望感はわかります…。

 

サル山さん:

いわゆる独身貴族の男性や、専業主婦のパートナーに子育てを任せてきた男性が上層部を占めている会社が、体質を変えることはなかなか難しいんだろうなぁと感じました。

 

会社は大好きでしたし、誰も責めるつもりはないのですが、幾度となく働き方の提案をしても、改善されない徒労感のほうがまさってしまいましたね。

 

管理職になれるまで踏ん張ったとしても、それはまだまだずっと先のこと。その間にも子どもはどんどん成長していって、待っていてはくれません。

 

私は今この瞬間子どもたちともう少し一緒にいたい。その気持ちをいちばん大切にしようと心に決めています。

 

まだフリーランスになったばかりでこの先どうなるかわかりませんが、今自分と家族がいちばんハッピーでいられる選択は何かを考えて、今後も決断をしていきたいと思っています。

 

 

次回は、会社を辞めたサル山さんの「その後」を追いかけます。ハッピーだけでは済まない、リアルな実情を聞きました。

 

PROFILE サル山ハハヲさん

5歳の長男と3歳の次男を育てながら働くワーママ。デジタルコンテンツ制作の会社でクリエイター職として働き、10年間の社畜生活を送った後、フリーランスとして独立。クリエイター職を続けながら、イラストや漫画の仕事をはじめるなど、新しい働き方を模索している。

取材・文/上野真依 画像提供/サル山ハハヲ