大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、ワンオペ子育てで子どもたちに叱ってばかりの日々に悩む女性の相談にお答えします。

【Q】“孤育て”に限界…子どもを叱らないで過ごしたい

子どもたちがやんちゃで大変です。小さい頃はもう少し気持ちに余裕を持って育児ができていた気がするのですが、子どもたちが小学校に上がってからは、「小学生になったんだからもっとしっかりしてほしい」という気持ちや、「もっと勉強も頑張ってほしい」という気持ちが出てきて、叱る機会が増えました。怒りの沸点が低くなったように思います。

 

近所に祖父母がいるわけでもなく、夫も仕事で帰りは遅く、ほぼワンオペでの「孤育て」で、他人の目がないことも自分の行動をエスカレートさせているような気がします。怒ってばかりだと家のなかの雰囲気が悪くなりますし、親子関係にも響きます。どうにかして子どもたちを叱らないようにしたいのですが、どうしたら良いでしょうか?

 

「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(1/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(1/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(2/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(2/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(3/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(3/8P)
「ワンオペで子供を叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(4/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(4/8P)※漫画の5P以降は本文の後に掲載しています

ワンオペは怒りの拍車がかかりやすい状況

ワンオペって冷静になりづらい状況ですよね。ひとりでも大人が近くにいると冷静でいようとする意識が働くのですが…。誰かの目がないと、自分の怒りに拍車がかかりやすくなります。それを意識して過ごすことも大切です。

 

でも、子どもが小学生になっても協力的でないと「もっとしっかりしてほしい」と思いますし、宿題スイッチが入らないと「もっと勉強も頑張ってほしい」と思ってしまうもの。

 

まずは伝え方を工夫してみてはいかがでしょうか。「勉強しなさい!」ではなくこう伝えてみては。

 

「お母さんはこういう大人になってほしいという思いがあるんだ。そのためにはもっと勉強を頑張って欲しいの」「今から勉強していたら、将来の選択肢が広がるよ」と具体的に率直に話します。感情的にならずに伝えると、案外理解してくれると思います。

目先のことだけを注意しないで!

日ごろ子どもと過ごす場面では、目先のことだけ言及してしまいがちです。たとえば「ランドセルはちゃんと片づけて」「靴をきちんとそろえて」などです。でもその先には「いつか自立できる人間になってもらいたい」という親の願いが込められているのではないでしょうか。その願いをいつもの言葉に少しつけ加えてはいかがでしょうか。

 

「学校のものは帰ってすぐ片づけたほうがきれいに生活できるね」「家って共同生活だから、玄関はみんなできれいに使いたいね」

 

などです。

どうすれば片づけられる?子ども目線で考える

もうひとつ、別の視点から考えてみましょう。

 

相談者さんは「叱る機会が増えた」とのことですが、「なんで分かってくれない」「なんで片づけないの」「なんで勉強しないの」と大人目線だけで捉えているかもしれません。

 

ここで視点を子ども目線に切り替えてみてください。

 

まず「どうしたら片づけができるだろう」と考えてみましょう。お子さんに聞いてもいいですね。実は片づける場所がなかった、片づける棚が子どもにとって使いにくい場所だった、という事実が見えてくることもあります。

 

ほかにも、「どうすれば勉強する気になれるか」を考えてみてください。何時ごろ、どんな場所で勉強したいとお子さんは考えているでしょうか。勉強スイッチが入りづらいようなら「何やってからなら勉強できそう?」と聞いてみるのもいいですね。「テレビを見終わってから」「ゲームが終わってから」など意見が出てきそうですね。そうした場合、「どうせ約束を守らないからダメ」と拒絶するのではなく、具体的に話し合って「じゃあそれで1週間試してみようか」と受け入れ、まず試してみてください。子どもは大人からルールを押しつけられると聞き入れないことがありますから。

日常の“当たり前”も言葉に出して褒めてあげて

ところでお子さんに褒め言葉のシャワーを浴びせていますか。子どもって大人を困らせるようなことをたくさんしますから、“叱りポイント”はすぐ見つかるのですが、“褒めポイント”は見つけづらいかもしれません。

 

褒めポイントは気づきにくいことが多いです。でも探せばいくらでもあります。たとえば「帰ってすぐ手を洗った」という当たり前のことも、褒めポイントです。子どもの“当たり前”を褒めて認めることも大切です。

 

「きれいに手を洗えたね」と事実を言葉にして伝えるだけでも子どもの励みになります。叱ってばかりの親子関係に変化に、小さな変化が生まれるかもしれません。言葉に出すことは大切です。少し話は逸れますが、「わが子のことが大好き」という気持ちも、「◯◯のこと、ママは大好きだよ」と意識的に言葉にして伝えたほうがいいですよ。

怒りが込み上げてきたら、気持ちを切り替えて

子どもへの怒りをぶちまけることは、親のストレス発散です。発散すると快感ですが、子どもへの効果はマイナス効果だけです。だからもし怒りが込み上げてきたら、自分で切り替える努力をしていただきたいです。

 

トイレにこもる、食べ物をつまむ、冷たい飲み物を飲む、香りを嗅ぐ、お風呂に入るなどして、怒りの意識を逸らします。深呼吸やため息でもいいでしょう。こんなときは手抜き料理にするのもいいですね。自分にゆとりをつくってあげてください。どんな切り替え方法が有効かは人それぞれなので、いろいろ試してみるのもいいですね。

 

もし叱りすぎてしまった場合は、「さっきはごめんね」「そこまで怒ることじゃなかったね。言いすぎてごめんね」と子どもに謝ることも大切です。

「ママ、女神様になる」宣言!叱らない日を決めてみる?

とはいえ、ワンオペで疲れ果てていると、褒めるエネルギーがほとんどないヘトヘトな日もありますよね。

 

でも、もしちょっとでも心に余裕がありそうな日は、いつもとは違う自分を演じて1日過ごしてみてはいかがでしょうか。

 

たとえば「きょうは女神様になる日!叱らない日」と決め、子どもにこう宣言します。「今日は寝るまで怒りません。だから協力してくれるとうれしいな」と。このように伝えておくだけで、驚くほど穏やかに過ごせることもありますよ。

 

「ワンオペで子供を叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(5/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(5/8P)
「ワンオペで子供を叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(6/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(6/8P)
「ワンオペで子供を叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(7/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(7/8P)
「ワンオペで子供を叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(8/8P)
「ワンオペで子どもを叱ってばかり…怒りの沸点が低くなった」(8/8P)

 

PROFILE 八木経弥さん

やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。

取材・文/大楽眞衣子 イラスト/まゆか!